2020
09.30
不動産賃貸経営の電子契約について

不動産賃貸経営の電子契約について

電子契約

不動産の契約時に、徐々に取り入れられ始めている「電子契約」。これまで、現地に足を運んで内見し、申込で物件を押さえ、仲介会社などに足を運んで契約するのが一般的だった不動産業界では、コロナ禍で外出自粛が続いたことを受けて、いよいよIT化の波が高まってきています。

本記事では、「電子契約」とはどのようなものか、どのようなメリットやデメリットがあるのかを解説します。

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電子契約とは?

電子契約とは?

「電子契約」とは、電子化した契約書などをインターネット上で交換し、電子署名を施すことで契約を締結する方法のことをいいます。

従来、契約する内容を記載した紙面を取り交わし、押印することで締結していた契約書に比べて、物理的なやり取りが少なくなる点が大きなメリットです。オンライン上で完結できる電子契約は、「withコロナ」時代にマッチした契約の方式といえるでしょう。

締結した電子データは、企業のサーバーやクラウドストレージなどに保管されます。国内における電子契約システムでは、以下のものが有名です。

  • 弁護士ドットコム株式会社が運営する「クラウドサイン」
  • GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が運営する「GMO電子印鑑Agree」
  • 現在世界180カ国、43言語で署名を利用できるDocuSign社の「DocuSign」

しかし、紙の契約書に慣れていると「押印もしないで本当に有効な契約が締結できるのだろうか」と不安に思う人もいるでしょう。
次項では、押印に代わる「電子署名」の仕組みについて、詳しく説明します。

電子契約における電子署名の仕組み

電子契約における電子署名の仕組み

紙の契約に比べてまだ浸透していない電子署名ですが、電子署名の有効性は法律で明記されています。電子署名がされた電子文書については、押印した契約書と同様の効力が認められます(電子署名法第3条)

しかし、単にデジタルファイルを取り交わすだけでは、法的に有効な契約とは認められません。電子ファイルの契約書に、「電子署名」および「タイムスタンプ」を付与する必要があります。この2点をもって有効な契約成立とみなすべく、容易に改ざんができないような制度が法律で定められています。

「電子署名」については、ただ紙の契約書に署名をしてPDF化すればいいわけではありません。電子署名は暗号技術を利用したプログラムを用いて作成した巨大な整数です。電子署名の生成には「秘密鍵」と呼ばれる、本人しか生成できない識別子を利用します。
また、電子署名を発行できるのは、省庁が認定した認証事業者などに限られています。そのため、むやみやたらに契約書を電子化できないのです。

電子署名やタイムスタンプが、信頼できる第三者により証明されたものであればあるほど、電子データの証拠力は高くなり、裁判などでも有効な証拠として認められやすくなります。

※関連資料:利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A

電子証明書の発行

電子署名が正当なものであるかを証明するのが「電子証明書」です。「電子証明書」は、認定された民間機関が発行でき、誰が作った電子署名なのかを特定することが可能になります。

紙の契約書に押印をする際に、その印影が本物であると証明するために「印鑑登録証明書」を提出することがありますが、それに似た証明の方法といえます。

紙の契約書に押印してPDF化しただけのものでは、この要件には該当しません。単に契約書を電子化(PDF化)しただけで、電子署名の仕組みを利用していない場合には、有効な契約として認められにくく、いざ法律上のトラブルが起きた際に、法的な根拠とすることが難しくなります。

タイムスタンプの付与

「タイムスタンプ」とは、電子契約書を作成した時刻を保証する仕組みです。電子署名では「誰が」「何を」契約したかを証明できますが、「いつ」という時間情報を証明することはできません。それを技術的に補完するのが、タイムスタンプの仕組みです。

タイムスタンプの仕組みでは、デジタル署名と同様の技術を用いて、タイムスタンプに記録される時刻以前に電子データが存在したこと(存在証明)と、その時刻以降に電子データが改ざんされていないこと(非改ざん証明)の2点を、客観的に保証しています。

紙の契約書の場合には、単に契約書内に締結日が書いてあればよいので、紙の契約書を意識していると、勘違いしてしまうかもしれません。紙の契約書をPDF化しただけではタイムスタンプの効果はないのです。

電子署名とタイムスタンプが揃ってはじめて、「誰が」「何を」「いつ」契約をしたのかを証明でき、電子契約が安全に成立することになります。

電子契約導入のメリット

電子契約導入のメリット

電子契約導入のメリットとして、以下が挙げられます。

  • 業務効率化
  • 紙代・印紙税などのコスト削減
  • 利用者の利便性向上
  • 社内のペーパーレス化

業務効率化

日系企業で働いたことがある人なら、契約を紙で締結する際に、上司に「捺印申請」をしたことがあることも多いでしょう。捺印は契約締結の証になるため、個人が勝手に行わないように、あえて第三者の申請や承認などの手続きを踏んでいる企業も多いです。

しかし、この申請や承認作業は手続きが煩雑であったり、タイムラグが発生したりするのです。「いつまで経っても契約書が返ってこない」ので上司の予定を確認すると、1週間の出張で不在だったことや、打ち合わせが続いて書類が確認できていなかったなどもあるのです。

契約書の締結が遅れると、業務の開始も遅延してしまいます。そこで有効なのが、インターネットの環境さえあれば、どこからでも締結できる電子契約です。

昨今のコロナ禍では、わざわざ申請書を作成するために出社する、申請書に捺印をするためだけに出社するケースも発生していると報道で耳にします。このような場合でも、契約書の捺印を電子化しておくことで、出勤や出社で人と対面で接することなく、契約書を締結することができるのです。

不動産の売買や賃貸などの契約でも、対面や郵送での紙の受け渡しをする手間や、複数の関係者間で契約をする際の煩雑なやりとりなどを、電子契約を導入することで減らすことができるでしょう。

紙代・印紙税などのコスト削減

紙で契約を取り交わす際には、収入印紙を貼る必要があります。もともと日本には「印紙税法」という法律があり、課税対象となる文書20項目を作成する場合には、課税をされる決まりがあるのです。課税額は対象となる文書やその契約金額にもよりますが、数百円から数十万円まで幅広く定められています。

ところが、電子契約の場合は、この「印紙税を支払う必要がない」と解釈されています。印紙税法の第2条には「文書等の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務を負う」との規定があるものの、電子契約での電子データのやりとりは「課税文書の作成」には該当しないと判断されているためです。

当時の慣習に合わせて作られた法律が、時代の変化に対応していないため適用外となることは、しばしば起こることのようです。今後、解釈が変更される可能性はありますが、現状では電子契約では印紙税はかからないことになっています。

大企業では年間の契約数も莫大な数になると考えられます。そのため、契約書の締結で印紙代がかからないことは大きなメリットになることでしょう。
また、1回の取引で大きな金額を取り扱う不動産でも、電子契約にすることで節約できる印紙代は無視できないほどの金額になります。

利用者の利便性向上

電子契約は、インターネット上でどこからでも確認することができます。これは締結した双方にいえることで、大きな利便性があります。

「この不動産賃貸借契約、更新のタイミングはいつだったか?」などと思った時に、紙の契約書の場合には保管場所に行って、原本を探さないとならないでしょう。しばらく前の契約書の場合にはあちこちひっくり返して探したり、それでも出てこない時は「まさか紛失?」と青くなったりすることもあるでしょう。

こうした時間のロスがなくなるのは、大きなメリットといえます。

社内のペーパーレス化

社員数が多い企業であれば、契約書の数も膨大で、保管にも一苦労です。だからといって契約書を破棄してしまうわけにもいきません。

電子契約であれば保管場所はクラウドサーバー上になるので、社内のペーパーレス化も進みます。電子契約ではデータで契約を管理することで紙を印刷する必要がなくなりますので、環境にも優しい取り組みといえるでしょう。

参考記事:Withコロナ時代のこれからの賃貸管理

電子契約導入のデメリット

電子契約導入のデメリット

電子契約には多くのメリットがありますが、一方で以下のようなデメリットもあります。

  • 導入にかかわる工数の増加
  • システムトラブルによる業務停止

導入にかかわる工数の増加

自社で電子契約システム自体を作ることはなさそうですが、他社のサービスを導入する場合には、まずは自身や利用者にトレーニングをする必要があります。何十年も紙の契約書を取り交わすことに慣れ親しんできた人にとっては、心理的な抵抗があったり、仕組みを理解するまでに時間がかかったりするかもしれません。

また、過去の紙の契約書と管理の仕方が分かれてしまう点も問題になるかもしれません。業務フローやマニュアルなどは、しっかり作成したうえで導入する必要があります。

システムトラブルによる業務停止

外部のサービスを使う場合には、システムのトラブルにより業務が停止してしまうリスクもゼロではありません。

契約書という重要な文書を外部に預ける面で、心理的な抵抗を抱かれる人には、主にこの点を気にするでしょう。もちろん、電子署名のサービス事業者はそれぞれ、システムにトラブルが発生しないように細心の注意を払ってサービスを運営しています。しかし、ITのシステムを活用する以上「絶対に安心」と言い切ることはできません。

そのため、契約の締結時に契約書のPDFをメールでも受信できるように設定しておくなど、定期的にデータをバックアップしておくように心がけるとよいでしょう。

電子契約の活用シーン

電子契約は不動産の賃貸借契約や建築請負契約の業務では、どのような場面で活用ができそうかを見ていきましょう。

不動産賃貸借契約(新規)

不動産業界では、国土交通省の社会実験で、2019年10月1日から3か月間「賃貸借契約書面の電子化」が実施されました。
その結果、電子契約を行うことで契約の業務効率が上がったなどの効果が認められました。そのため、賃貸借契約の現場でも電子化が進んでいく傾向にあります

不動産賃貸借契約の場合には、宅地建物取引業法37条に定める書面を電子で交付することで、契約の電子化が可能です。保証委託契約、家財保険、少額短期保険などの契約も電子契約を行うことができますが、定期借家契約は該当しないため注意が必要です。

電子契約を導入する場合には、関係者が十分に電子契約のシステムに慣れていることが必要です。不動産業界では、契約の頻度がそこまで多くないことから、大家、契約者、不動産仲介業者すべてが電子契約のシステムに慣れている状況は、限られているかもしれません。

「伝えたメールアドレスが間違っていて電子契約の通知が届かない」「大家さんがご高齢でシステムの使い方がわからない」などのケースでは、電子契約システムを利用するハードルが高いです。そのため、紙面に捺印をして契約を取り交わす以上に手間がかかる可能性があるので、注意が必要です。

不動産賃貸借契約(更新)

不動産賃貸借契約の電子化では、新規に契約を締結するときのみでなく、紙面上で一度契約したものを後に更新するときに、電子契約に置き換える方法もあります。更新に関する契約では、宅地建物取引業法が定める書面交付の制限がないので、新規の契約の際よりも導入がしやすいといえます。

まずは契約の更新分から電子化を進めていくのも、電子契約を推進するための一つの方法として有効です。

重要事項説明(IT重説)

「IT重説」とは、ZoomやSkypeなどのWeb会議システムを活用して行う、賃貸借契約における重要事項説明のことです。以前は宅地建物取引士が「対面で」説明しなければなりませんでしたが、今ではオンライン上で行えるようになりました。

IT重説は、不動産を借りる際に、遠隔地に住んでいて引っ越しまで来店の予定がない場合や、日中は仕事などで忙しく契約書の読み合わせに行く時間がない人にも嬉しいサービスです。

コロナ禍で感染予防策が求められている現在では、電子化を進めることで対面での接客をなくすことが、感染症対策としても役立つことでしょう。

しかし、インターネット回線が不安定な場合には、説明の途中で画面が止まったり、回線が落ちたりして重説が終わらないケースもあります。借主側のインターネット回線の環境が整っていない場合には、結局不動産仲介事業者の店舗に来てもらって契約をすることになるなど、IT重説の有効性が薄れてしまうケースもありえます。全面導入にはまだ課題が残っているといえるでしょう。

建設請負契約

「建築請負契約」は、不動産の賃貸経営の場合には、アパートなどの新築の施工や中古住宅のリフォームなどで行う契約です。大規模な新築工事やリフォームの場合には、特に契約上のトラブルが発生しないように、電子契約で作成する契約書に制限が加わります。

具体的には「契約の相手方が、ファイルへの記録を出力して書面を作成することができる」ことや、「ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかが確認できる措置を講じている」ことなどが必要と定められています。

そのため、これらの基準に適合する電子契約サービスでなければ、有効な電子契約を締結できないことになるので注意が必要です。

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まとめ

不動産業界でも進むオンライン化の波。電子契約の導入については、業界全体で利用されるまでには、まだ時間がかかりそうです。大きなメリットのある電子契約の普及に、今後も注目していきましょう。

記事を書いた人

弦本卓也
大学卒業後、2011年に大手不動産会社に入社し現在まで不動産メディアづくりや組織づくりに従事。不動産に興味を持ち個人でも戸建てや区分マンション、商業ビルなどの売買を経験。会社員を続ける傍ら、学生時代に起業した会社とあわせて現在は株式会社を2社経営。投資家として若手実業家の支援なども手がけている。


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